SDGs
政策科学研究所におけるSDGsに向けた取り組み ~水素社会の構築~
2015年、『国連持続可能な開発サミット』が開催され、普遍的な国際社会全体の目標、すなわち「持続可能な開発のための2030アジェンダ」と「持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)」が、全会一致で採択されました。国際連合が目標に掲げて以降、先進国を中心に世界中で取り組まれている持続可能な開発目標(SDGs)ですが、本学では多くの部局においてこれを意識した様々な取り組みが行われており、政策科学研究所も、そのような組織の一つとして位置しています。兵庫県立大学は、安全で平和な社会の実現のために、そして全世界の幸福と福祉に貢献するために、令和4年3月23日に、SDGs 宣言を発しています(兵庫県立大学SDGs宣言はコチラ)
このSDGsの目標の中に公正、平和かつ包摂的な社会を推進するというものがあります(SDGsの目標16)。ロシアのウクライナ侵攻はこの目標から大きく乖離したものでした。平和な国際社会を構築するためには、ウクライナの経済復興を周辺各国が協力してなすことも必要になることです。一方、ロシアのウクライナへの侵攻が世界を震撼させたことに対し、日本は西側諸国の一員として自由主義経済社会を守るための行動をとっています。ロシアは、ベラルーシなど、かつてソビエト連邦を構成していた一部の国々と連携しながら、中国やインドなどとも関係を深め、独自の経済圏を世界に作り上げようとしています。これについて、政策科学研究所は経済学からもの問題にアプローチするシンポジウムを開催しました。そこで示された我が国の未来の処方箋は脱ロシアと脱炭素社会でした(令和4年度第1回シンポジウム関連はコチラ)。
脱炭素社会の「未来」のデザインと提言
地球環境が人間による活動で大きく変化している現在、気候変動は激しさを増し、広範囲な悪影響が、生態系と人間社会に及んでいます。このような地球規模の危機に対して、持続可能な社会の実現が、全世界規模で要求される課題となっています。現在の政策科学研究所の最大のテーマは、脱炭素社会の構築であり、SDGsの流れを受けて、政策科学研究所は、脱炭素社会の「未来」のデザインと提言に取り組んでいます(SDGsの目標7)。
現在におけるエネルギー問題は、世界が直面している諸課題の核心にあると思われますが、雇用、食料生産、安全保障、水資源、加えて気候変動等も、エネルギーの持続可能性と結び付いています。地球の気温上昇による様々な悪影響が明白であることを、正面から、冷静に受け止めて、カーボンニュートラルへの取り組みに着手することは、今や総合大学の責任として、不可欠なものとなっています。
政策科学研究所は、私たちの暮らしを持続可能な形で改善し、次世代に継承するため、カーボンニュートラルを目指す技術革新に着目します。そして、いかなる技術をもってこの混迷の状況を脱するのか、関連する研究を多角的に展開し、それらの研究を深化させ、脱炭素社会に関連する様々な提言を行います。政策科学研究所は、脱炭素社会の「未来」をデザインし、「未来の社会に向けた課題解決」に貢献すべく、様々な機会をとらえて脱炭素社会に向けたシンポジウムや政策提言を行っていきます。
SDGsに適合的な脱炭素(カーボンニュートラル)社会の創出に合わせ、「水素社会」の到来を指摘する方々が増えています。兵庫県立大学政策科学研究所は、そのような方々とともに研究を進めていきたいと考えています。政策科学研究所は、ウクライナ情勢を経て、いよいよ必要となる「新燃料」を育てるために、兵庫県立大学の理系の各組織、たとえば水素エネルギー共同研究センターや高度産業科学技術研究所などとも連携します。そして科学技術に裏打ちされたものとなる政策提言を試みたいと考えています。
政策科学研究所は、水素社会に民間企業がどのように対応するかという点を重視し、都市ガス大手や電力大手にも重点的にかかわっていただきます。そのことにより、民間企業に十分受け入れ可能であり、学術的にも合理的な制度設計を提言してまいります。順次、最新の知見を取り入れた専門家と実務家が登壇するシンポジウムを開催し、多くの方が十分に質の高い情報を手にできるよう、計画しております。ウクライナ侵攻後の世界を前提とし、政策科学研究所は、今後の厳しい燃料確保と燃料開発の認識のもと、「水素社会」の構築にアプローチします。
脱炭素を可能にするアンモニア混焼による発電
令和4年11月22日(火)夜には、石炭火力発電所での補完的燃料として、水素由来の「アンモニア」を石炭と混焼させることの意義や可能性を議論する第2回シンポジウムを開催します。世界から悪者にされがちな石炭火力発電所は、いかなる技術をもってこの困難な状況を脱するか、そして、そのためのリスク管理はどのようなものであるべきかを多角的に研究したいと考えます。「アンモニア」を燃焼させると、確かに二酸化炭素は排出されませんが、その一方で二酸化窒素が排出されるため、これをリスクと見る向きもあります。「アンモニア」が与える発電所の機材へのダメージも考えねばなりません。しかし、石炭に限らず、メタンとの混焼なども可能であり、その組み合わせの将来性には素晴らしいものがあります。パネリストは石炭火力発電所を保有する関西電力株式会社と電源開発株式会社が登壇されます。そして、基調講演をわが国のアンモニア政策のキーパーソンとされる一般社団法人クリーン燃料アンモニア協会(CFAA)副会長(代表理事)の村木茂様、討論者を野村宗訓関西学院大学経済学部教授にお願いしております。場所は、兵庫県民会館のけんみんホールです(令和4年度第2回シンポジウム関連はコチラ)。
「法人限定の電力先物取引~電気料金高騰による企業破綻を食い止める~」
政策科学研究所は、エネルギー市場での取引も扱いたいと考えています。わが国では、電力市場が多様な形態で存在しています。スポット市場、時間前市場、先渡市場、調整力市場、ベースロード市場、容量市場、非化石価値取引市場などに目配りしますが、再生可能エネルギーの比率が高まるとともにこれらの市場において価格が高騰するために、リスクヘッジとして法人のみが参加できる電力先物取引のニーズが増大することが見込まれています。その中で、政策科学研究所は電気先物取引の活性化にも寄与することにより、電力の総合的な市場設計等に寄与してまいりたいと考えます。これにつき、つぎに、令和5年3月4日(土)に国際公共経済学会(会長:中村伊知哉情報経営イノベーション専門職大学長)の開催校として、メインイベントの企画となるシンポジウムを実施し、議論を深化させてまいります。このシンポジウムでは、「法人限定の電力先物取引~電気料金高騰による企業破綻を食い止める~」と題して実務的な説明も盛り込んで、理解が困難とされる電力先物取引について知ることができる「啓蒙シンポジウム」になるよう設計されています(当該令和4年度第3回シンポジウム関連はコチラ)。
メタネーションがある未来
さらに来年度には、メタネーションやプロパネーションの可能性を追及する第4回シンポジウムを開催します。メタネーションやプロパネーションは、主として工場から二酸化炭素を回収して、水素と合成し、メタンガスやプロパンガスを生成する技術であり、そのようなメタンガスやプロパンガスを燃焼させ、二酸化炭素を大気に放出しながら発電しても、バイオマス発電と同じ根拠で、新たな温室効果ガスを排出していない扱いとされます。これにより、未来の「水素社会」では、工場においても商店においても家庭においても、電気や都市ガスやプロパンガスがこれまで通り利用できることが見込まれます。このことから、水素は太陽光発電による水の電気分解から取り出される、いわゆる「グリーン水素」を念頭においた先進的な位置づけになるシンポジウムを開催します。東京ガス・大阪ガス・東邦ガスの都市ガス最大手三社にお越しいただき、国の担当者に、どのような設計でメタネーションやプロパネーションをやり遂げるのかをしっかり説明していただく予定です。討論者を楠田昭二福山大学経済学部長にお願いしております(令和5年度第1回シンポジウム関連はコチラ)。
このように、政策科学研究所は、皆様とご一緒にSDGsの実現に向かいたいと考えています。是非とも、よろしくお願いします。
政策科学研究所