IPSプロジェクト
「創造的都市空間としての住工混在地域再生に関する研究-Branch Plant Economy から創造的都市空間へ-」
担当者:和田 真理子
旧阪神工業地帯臨海部は、製造のみを手がける「分工場」拠点として発展したが、地球規模での産業構造変化、技術革新の変化により衰退し、ラストベル ト(鉄さび地帯)と化した。ここが現在、パネルベイとして再生しつつあるが、経済的構図からは、かつてラストベルト化をもたらしたメカニズムの再来との危 惧は拭えない。製品のライフサイクル短期化、世界の産業地図の加速度的変容は、パネルベイの将来を考える上で閑却できない。
地域経済はその結びつきからbridgingとbondingの2つの要素を有している。bridgingは経済活動のグローバル展開における世界 とのネットワーク形成を示しており、bondingは地域内部に形成されている循環構造を示唆している。旧阪神工業地帯は、bridgingの臨海部、 bondingの住工混在地区双方が空間的に連接していたが、機能的には有機的関係性を持たず、結果として分工場経済branch plant economy が地域経済から遊離する背景となった。
その意味で、大阪湾ベイエリアの将来を考える上で、地域経済内部における有機的連関のあり方を点検することは、パネルベイの今後を検討する上で重要 なポイントとなろう。具体的には、ベイエリアに集積する中小零細事業所群と臨海部の大規模事業所との関係形成は不可避の課題といわなければならない。一 方、インナーシティに形成された住工混在地区の変化も大きい。80年代中期まで混在が引き起こす軋轢は、都市問題としての大きな課題であった。もちろん、 今日もこうした事態は引き続き生じている。ただ、こうした住工混在地区も、近年のグローバル・シフト、これに関わる世界規模の生産システム再編のなかで、 大きく変容してきたことも事実である。住工混在地域はこれまでの混在による問題地区という場だけではない新たな「顔」を有する空間に変貌しつつある。混在 のあり方は明らかに多様化してきている。
住工混在地域に元来内在する多様性は、都市の創造性の源であり、特定の機能に特化した臨海部と有機的なネットワークが形成されることが、ベイエリア が創造的都市へと転換する重要な条件となりうる。しかし一方で、住工混在地域も課題を抱えている。住宅地化により地域内のネットワークが分断されつつある ことに加え、生活空間としての魅力も、現代の創造的な人々を引きつけるには十分とはいえない。ベイエリアが創造的なビジネスの拠点となるには、住工混在地 域の個性やアメニティを高めることが重要である。
本調査では、大阪湾ベイエリアがかつての地域経済と遊離したbranch plant economy から、地域に根ざした創造的ビジネスの世界拠点として本格起動するために必要な、bondingと bridgingの接点のデザインのありかたについて検討を行うことを目的としている。その際、これまでどちらかというとベイエリア再生の議論から取り残 されてきた住工混在地区に着目し、その変化の実態とbonding の可能性、そしてbridging との接点形成にむけた検討を行おうとするものである。
2010年12月23日 更新